きものに興味をもたせてくれた黒の総鹿の子絞り

(まずい、大事な友達の結婚式なのに、着ていけるワンピースがない、、、)

2018年の冬、留学時と同じくらいぷくぷくになってしまった私は、大切な友人の結婚式に招待されていたものの、着ていけるワンピースがなかった。

結婚式まであと1ヶ月。

さて新しいワンピースを買うか、あと1ヶ月でどうにかして痩せるか、、、。

そこで思い出したのが、総鹿の子絞りの着物。

 

実家が元呉服屋だったのにも関わらず、いろいろあって当時自分の着物は一着だけ。

それが黒の総鹿の子絞りだった。 

ぷにぷにでもあの総絞りならかえって貫禄が出てうまくカバーしてくれるだろう。そう思い、約3年ぶりに袖を通すことにした。

 

黒の総絞りはもともとは叔母が成人式のときに呉服屋の店主であった祖母が用意した着物で、その後は長いこと箪笥にしまわれているままであった。

私が成人式のときに、母の紫の総絞りの振袖を着る気になれず(母は身長が高く、身長が低い私には丈が長すぎる)、叔母の総絞りの着物を貸してもらうことになった。

黒の総鹿の子絞り

成人式で初めて着たときには、母に何度も何度も「この着物は高いんだから絶対に汚しちゃだめだよ。汚したらもうきれいにできないんだから。クリーニングにも出せないから本当に気をつけて着てね!」と言われ、そんなに高い着物なのかと着ていることがこわくなったほどだ。

会場に着くと、みんな色とりどりの鮮やかな振袖を着ていて、華やかでかわいらしい。

あれ、私めっちゃ地味じゃない!?浮いてる、、、?振袖レンタルすればよかった、、、と心のなかで心配になっていたところ、ある友達のお母さんが「わあ、総絞りの着物なんて、なんて贅沢なの、かっこいい!」と言ってくれて、肩身が狭い想いだったのがすっと楽になったことを今でも覚えている。

そうして無事にどこも汚さずに終わり、それ以降私が譲り受け、大学の卒業式など人生の大事な節目に身を預ける頼れる存在になっていた。

 

 

そういう、どこか自信を持たせてくれる着物だったので、友人の結婚式ではこの総絞りにいろんな意味で頼ってしまおうことにした(この時も20歳のときと同じく、母に重々汚さないようにと忠告を受け、無駄に緊張することに)。

友人の結婚式はさすが一つ一つにこだわりがあってセンスが光るものであったが、式が終わったあとに友人から連絡があった。

「お母さんが、総絞りの着物着てくれてありがとうって、本当に喜んでたよ。着物わざわざ着てくれてありがとうね」

思いがけない連絡で、私も本当に嬉しかった。

と同時に、着れるワンピースなかったから着物に頼ってしまったけども、、、着物ってこんなに喜んでもらえるものなんだということを改めて知る機会になった。

  

着るだけでこんなに喜んでもらえるなら、もっと着物を着て結婚式に参列しようかな。

そして自分が着ている着物についてもちゃんと学びたい。

そもそもうちで扱っていた着物ってほかにどういうものがあったんだろう?着付けって自分でできるようになるんだろうか。

それまで呉服屋に生まれながら全く着物に興味を示さなかった私が、着物をもっと知ってみようと思ったきっかけとなったのがこの黒の総絞りであった。

 

ちなみに総鹿の子絞りとは、江戸時代で奢侈禁止令の対象になったほどの贅沢品で、職人の技術で一粒一粒を絞って模様をつくった着物。

贅沢品でありながら、結婚式参列などでは着られないという声もある一方で、今の時代ではフォーマルにも通用するという声も見受けられるよう。

結果的に私は参列で着ていったが、他の参列者の方も喜んでくださった。

  

20歳のときは地味かなあと思っていた黒の総絞りは、日本人の確かな技術が光る伝統工芸品であり、着ていると自分に自信をつけてくれるような存在である。

これからも、おばあちゃんになっても、どんどん着ていきたい私の大切な一枚目の着物である。

 

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